2025年12月4日、日中間のスタートアップ支援とオープンイノベーション支援を手掛ける匠新(ジャンシン)主催の「2025 日中イノベーション・デイ」で、リコー RDS 中国総合戦略部 部長 兼 Ricoh Software Research Center (Beijing) Co., Ltd. 社長の藤本豪さんが登壇した。テーマは「日中企業連携のイノベーションプラットフォームの取り組み」。かつては「オフショア研究開発拠点」と見られてきた中国拠点はいま、最先端技術と事業創出を担う前線へと変貌しつつある。藤本さんは、自身が中国で推進してきた共創の実践をもとに、単独主義を超えた日中企業連携のリアルと、その先に広がる可能性を語った。(文=JapanStep編集部)
2025年12月4日、東京で開催された「2025 日中イノベーション・デイ」。藤本豪さんは中国・北京からオンラインで登壇し、リコーにおける中国戦略と共創の取り組みについて語った。藤本さんは現在、リコーデジタルサービス(RDS)BU 中国総合戦略部 部長を務めると同時に、北京にあるAI研究拠点「Ricoh Software Research Center (Beijing) Co., Ltd.(SRCB)」の社長を兼務している。
藤本さんはまず、SRCBの成り立ちと、その役割の変化について振り返った。「北京の研究所は2004年に設立し、もう20年以上になります。実は最初の10年ほどは、先端研究というより、人件費の安い中国でのオフショア研究開発、いわば下請けに近い仕事をしていました」(藤本さん)
しかし中国の人件費上昇や市場環境の変化を背景に、その位置づけは大きく変わっていった。「単なるオフショアでは割に合わなくなり、むしろ中国ならではの環境で最先端AIに取り組もうと舵を切りました」(藤本さん)
現在、SRCBでは画像処理AI、自然言語処理AI、3D空間認識画像AIを主軸に研究を進め、国際的な技術評価コンペティションでも何度もグローバルNo.1の評価を得ているという。ただし藤本さんは、「技術力」だけではビジネスにならないと強調する。「研究所として論文を書いて終わりではもったいない。研究の蓄積をどう事業につなげるかが重要です。私が社長に就任してからは、研究と新規事業開発の両軸を明確なミッションに据えました」(藤本さん)
そのために立ち上げたのが、日中企業を結ぶ共創プラットフォームである。「技術はある。しかし、どの市場で、どのお客様に、どう届けるのか。その市場理解やチャネルについては、特に新規事業開発において、中国ではまだ弱い部分がありました。だからこそ、不足部分を担えるパートナーが必要だと考えたのです」(藤本さん)
藤本さんはこの考え方を、経済学者シュンペーターの言葉を引きながら説明した。「イノベーションは『新結合』である。いろいろなものを新しい形で組み合わせることが価値を生む。自社だけでなく、パートナーと組むことでこそ実現できると考えています」(藤本さん)
リコーが主導する共創の取り組みは、2021年にリコー単独のハッカソンとしてスタートした。「最初は『リコーハッカソン』という形で始めましたが、この考え方に賛同する企業が徐々に増えていきました」(藤本さん)
その後、ソニー、村田製作所、日東電工、横河電機、オムロンといった企業が参画し、取り組みは「日中イノベーション大会」へと発展。現在ではオリックス(中国)が運営管理を担い、中国最大級の共創プラットフォームの一つとなっている。「自他ともに認める、中国最大級・最大影響力・最長歴史の日中企業共創プラットフォームになったと思います」(藤本さん)
2025年度はウェブサイトやパートナーを通じて公募を行い、青島、成都、蘇州、深圳、北京など5都市で予選を実施。約200社が応募し、そこから選抜された15社が全国決勝へ進む。「2026年1月には北京で決勝戦を予定しています。中国の官製メディアにも取り上げていただき、大きな注目を集めています」(藤本さん)
藤本さんがこの取り組みの強みとして挙げたのが、単なるコンテストではなく「生態圏(エコシステム)」として機能している点だ。「日本企業が技術を開放し、中国企業が新しい発想と実装力を提供する。最近では、中国企業が海外展開を考える際に、日本企業の販売網を活用したいという逆の提案も出てきています」(藤本さん)
さらに、参加企業同士の横のつながりも生まれている。「この7社は、いわば『ハッカソンファミリー』のような関係です。現地の人材同士が自発的につながり、化学反応が起きているのを感じます」(藤本さん)
一方で藤本さんは、共創や新規事業が常に成功するわけではない現実も率直に語った。「最初から正解が分かっていたわけではありません。試行錯誤の連続でした」(藤本さん)
初年度は期待外れの提案が続いたことや、学生チームの技術が事業化に至らなかった経験も明かす。「正直、『これは厳しいな』と思うこともたくさんありました」(藤本さん)
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そうした中で、社内からは成果を求める声も上がる。「『なぜうまくいかないんだ』と言われることもあります。でも、新規事業なんて一発必中ではありません。100発、200発打って、2、3発当たればいいんです」(藤本さん)
その結果、具体的な成果も生まれ始めている。天津の企業との協業では新しいソリューションが商品化され、深圳の大学チームとは別テーマでの協業が進行中だという。「一度エコシステムに入ったチームが、別の形でつながり直して事業が生まれる。これも『新結合』の面白さです」(藤本さん)
講演の最後に、藤本さんは2026年1月に予定されている北京での決勝戦に触れた。
「日中の情勢など不安はありますが、やると決めて進めています。ぜひ現地の熱気を見に来ていただきたいですね」(藤本さん)
単独で完結しようとせず、仲間とともに挑戦を重ねる。その積み重ねが、日中企業連携における新しいイノベーションの形を描きつつある。