皆さん、こんにちは。フォーバル GDXリサーチ研究所の平良学です。本連載では、中小企業が変化の時代に新たな一歩を踏み出すための考え方を、私自身の経験を交えながらお伝えしています。第3回では、新規事業の種は遠くにあるのではなく、お客様の「ありがとう」や、普段は断っていた依頼の中にも眠っているとお話ししました。では、赤字が続く事業を立て直すとき、何から見ればよいのでしょうか。苦しいときほど「売上を上げなければ」と考えます。しかし、本当に見るべきなのは、売上の量だけではありません。今回は、再生の現場で最初に見直すべき「売上の質」について考えていきます。(解説=フォーバル GDXリサーチ研究所 平良学/文=JMPプロデューサー長谷川浩和)
教えてくれるのは…

フォーバル GDXリサーチ研究所 所長
平良 学さん
1992年、株式会社フォーバル入社。九州支店の責任者として赤字拠点の立て直しに取り組み、コンサルティング事業の立ち上げや事業部の統括、アライアンス事業などを担い、2020年に執行役員に就任。2022年より、GDX(Green × Digital Transformation)を軸に、中小企業のDX・ESG経営、自治体連携による地域企業支援、調査・研究・提言活動に取り組んでいる。
赤字事業を前にすると、多くの経営者はまず「売上を上げなければ」と考えます。もちろん、売上は大切です。売上がなければ会社は続きませんし、社員の給与も守れません。苦しい局面で、まず売上を追いたくなる気持ちはよく分かります。
ただ、再生の現場で私が最初に見るのは、売上の量だけではありません。その売上を、本当に取りに行くべきなのか。そこを問い直すところから始めます。
中小企業では、特定の取引先に売上が大きく偏っていることがあります。一見すると、大口顧客がいることは安心材料に見えます。しかし、その案件が本当に利益を生んでいるのかを見ていくと、実はそうではないこともあります。売上は大きい。けれども、手間がかかる。急な対応も多い。社員は追加対応に追われ、疲弊している。それでも「大事なお客様だから」と、条件を見直さないまま続けてしまう。こうした状況は、決して珍しくありません。
問題は、その案件を担当している人たちが頑張っていないことではありません。むしろ、現場は必死に頑張っています。だからこそ、経営者が見なければならないのは、努力の量ではなく、その努力が利益につながっているかどうかです。
売上を上げること自体が目的になってしまうと、本来は条件を見直すべき案件まで取りに行ってしまいます。売上は増えているのに、なぜか利益が残らない。社員は忙しいのに、次の投資に回す余力が残らない。経営者も現場も疲れているのに、次の投資に回すお金も時間も生まれない。そこには、売上の質を見ないまま走っている危うさがあります。
赤字事業の立て直しで大事なのは、売上を否定することではありません。売上を一つひとつ見直し、どの売上が会社を支え、どの売上が会社を苦しくしているのかを見極めることです。売上には、伸ばすべき売上と、条件を見直すべき売上があります。その違いを見えるようにすることが、再生の第一歩になります。
苦しいときほど、売上を追いたくなる。しかし、売上の量だけを追っている限り、会社の体質は変わりません。まず見るべきは、その売上が会社に何を残しているかです。ここを見誤らないことが、赤字事業を立て直す出発点です。
では、売上の質を見るためには、何から始めればよいのでしょうか。私が再生の現場で必ず行うのは、案件ごとの利益を見えるようにすることです。
どの取引先から、どのくらいの売上があるのか。そこにどれだけの原価がかかっているのか。どれだけの人手がかかっているのか。納品や対応にどれだけの時間を使っているのか。これらを一覧にしていくと、これまで見えていなかった現実が浮かび上がります。
売上が大きい案件が、必ずしも良い案件とは限りません。逆に、売上は小さくても利益率が高く、社員の負荷も少ない案件があります。短時間で高い付加価値を生んでいる仕事もあれば、多くの時間を使っているのに利益がほとんど残っていない仕事もあります。案件ごとの収益性を見ずに、「売上が大きいから大事」「昔からの取引だから続ける」と判断してしまうと、会社は少しずつ体力を失っていきます。
もちろん、すべてを数字だけで割り切る必要はありません。長年の信頼関係がある取引先もあります。今は利益が薄くても、将来につながる案件もあります。地域や業界の中で、簡単には切れない関係もあるでしょう。中小企業の経営は、単純な損得だけで動くものではありません。
ただし、だからこそ見える化が必要です。数字を見たうえで続けるのと、見えないまま続けるのとでは、判断の重みがまったく違います。見えていれば、「この案件は利益は薄いが、将来のために続ける」「この仕事は現場を疲弊させているので条件を見直す」「この領域は利益率が高いので、もっと伸ばす」と判断できます。
特に大切なのは、時間あたりの付加価値です。売上や粗利だけでなく、その仕事にどれだけの時間がかかっているのかを見る。人手不足が続く中で、時間はますます貴重な経営資源になっています。社員の時間をどこに使うのか。そこを見誤ると、利益だけでなく、社員の意欲や将来への投資余力まで削ってしまいます。
案件ごとの利益を見える化すると、経営者は初めて「何を伸ばすべきか」「何を見直すべきか」を具体的に考えられるようになります。感覚だけでなく、事実をもとに判断できるようになる。赤字事業の再生は、気合いや根性だけでは進みません。まず現実を直視し、判断できる材料をそろえることから始まります。
案件ごとの利益が見えてくると、次に必要になるのは「何を見直すか」を決めることです。これは、経営者にとって簡単な判断ではありません。長く付き合ってきた取引先。社員が頑張って対応してきた仕事。売上としては大きく見える案件。それらを見直すには、勇気がいります。
しかし、赤字事業を立て直すためには、続けるものと見直すものを分けなければなりません。すべてを抱えたままでは、新しい挑戦に向かう余力が生まれないからです。
私は、再生の現場では「時間とお金を生み出すこと」が欠かせないとお話ししています。新しい事業をつくるにも、既存事業を磨き込むにも、社員を育てるにも、時間とお金が必要です。ところが、利益の薄い仕事や、現場を疲弊させる仕事に経営資源を使い続けていると、その余力が生まれません。

ここで言う「見直す」とは、お客様との関係を乱暴に切ることではありません。条件を見直す。価格を見直す。対応範囲を決める。取引の仕方を変える。場合によっては、続ける理由をあらためて確認する。そうした判断を、一つひとつ丁寧に行うことです。
たとえば、利益が出ていない案件でも、価格交渉によって改善できることがあります。これまで何となく続けていた対応範囲を明確にするだけで、現場の負荷を減らせることもあります。納期や仕様変更のルールを決めることで、社員の時間を守れることもあります。見直しとは、取引をやめることだけを意味するのではありません。
大切なのは、経営者が「何を守り、何を変えるのか」を決めることです。すべてを守ろうとすると、結果として本当に守るべきものまで守れなくなります。利益を生む仕事、社員の成長につながる仕事、次の事業の種になる仕事。そこに時間とお金を回すためには、見直すべき仕事に向き合わなければなりません。
赤字事業の再生は、売上を増やすことだけで進むものではありません。むしろ、何に経営資源を使っているのかを見直し、次の一手に回せる余力をつくることが大切です。見直す判断は、会社を小さくするためではありません。会社を次へ進めるための原資を生み出す判断です。
赤字事業の立て直しでは、数字だけでなく、現場の動きも見ていく必要があります。私が印象に残っている、沖縄そばをつくっている会社の例があります。
その会社では、工場の現場から「人が足りない」「忙しすぎる」という声が上がっていました。一方で、経営者には別の悩みがありました。物産展に出れば売上が見込めるのに、そこへ人を出す余裕がない。現場は人手不足を訴え、経営者は売上機会を逃している。どちらも、会社にとって切実な問題でした。
そこで、製造ラインの動きを日報で見えるようにしました。どの作業に、どのくらいの時間がかかっているのか。どこで待ち時間が生まれているのか。誰がどの工程を担っているのか。現場の感覚だけでなく、実際の動きを見えるようにしていきました。
すると、無理や無駄、ムラが見えてきました。人が足りないと思っていた現場でも、作業の流れを見直すことで、一人分の人員を捻出できることが分かりました。その一人を物産展に配置したところ、売上の機会をつかむことができました。既存事業の中にあった無駄を減らし、その余力を売上を生む場に回すことができました。
この話で大切なのは、現場の声を否定する必要はないということです。「人が足りない」という声が間違っていたわけではありません。現場は、本当に忙しかった。ただ、その忙しさの中身が見えていなかった。どこに負荷があり、どこに無駄があり、どこを変えればよいのかが分からなかった。見えるようになったことで、初めて打ち手が見えてきました。
現場の動きが見えるようになると、経営者だけでなく、社員も納得しやすくなります。なぜこの作業を変えるのか。なぜこの配置にするのか。なぜこの仕事を見直すのか。理由が見えれば、人は前に進みやすくなります。逆に、理由が見えないまま「頑張れ」と言われても、現場は疲れてしまいます。
再生の現場で必要なのは、厳しい数字を突きつけることだけではありません。現場の声を聞き、動きを見えるようにし、どこを変えれば会社も社員も前に進めるのかを一緒に探ることです。見えれば、判断できる。見えれば、動き出せる。赤字事業の立て直しは、そこから始まります。
次回はいよいよ最終回です。これまでお話ししてきた「現場を見ること」「経営を見える化すること」「事業の種を見つけること」「売上の質を見直すこと」を踏まえ、これからの中小企業に必要な経営観について考えます。変化の時代に、経営者はどのような旗を立て、何を守り、何を変えていくべきなのか。社員や地域、取引先とともに未来へ進むために大切な視点を、最終回でお話しします。次回もぜひお楽しみに。